2017年05月09日

小野耕世先生の新刊と展覧会

当会名誉会員でいらっしゃいます小野耕世先生の新刊が岩波書店より5月26日(金)発売予定です。

「長編マンガの先駆者たち 田河水泡から手塚治虫まで」
https://www.iwanami.co.jp/book/b287027.html

会誌9号の読書会で熱く語られていた横井福次郎なども登場するようで興味津々です。

また、東京の若山美術館で「小野耕世、マンガづけの少年時代」展を6月24日まで開催中です。こちらもぜひ。

http://www.wakayama-museum.com

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2017年03月26日

人はなぜ物語を求めるのか

3月も終わりに近づきました。早いものです。

目まぐるしく世の中が移り変わっていくのにも付き合いきれないな、と(個人的に)思いつつも、ヴェルヌ研はそろそろと次の活動に向けて準備中です。

忙中閑あり、とは言いますが、やはり時間があるとついテレビを見てしまうのは世代なのでしょう。最近の若い人はTVのコンテンツをネット動画で見るそうで。

習慣で見ている朝ドラは「べっぴんさん」がもうじき完結。脚本が悪い、とネットでは否定的なコメントが目立ちますが、それは先入観も多々あるのでは、と思っています。

まず、ドラマは脚本どおりに映像化されるわけではありません。ヒットした「あまちゃん」でも、シナリオ集を読むと、ずいぶんセリフや場面が変えられていることがわかります。「べっぴんさん」のHPを見ていても、引越しの場面で脚本は軽トラックだったのを自転車に変えたという裏話が紹介されたりしています。役者さんのインタビューを読んでも、ずいぶん現場でアドリブが入ったりしているようです。演出家や役者の解釈が入ると、おそらくその後の脚本にも影響が出るでしょう。

もちろん、シェイクスピアでもチェーホフでも、書かれたとおりにはならないわけで(書かれていないことだっていっぱいある)、それがお芝居というものでしょう。だから、全部脚本のせいにはそもそもできないのではないでしょうか。

もう一つは、どうやら俳優の拘束期間が、細かく決められているようで、それを超えて出番を作ることができないということ。民放のドラマ3か月分は、朝ドラの放送時間数でいうと1か月半程度です。きっちりその期間だけ出演して、あとは全く出てこない、というと、主人公の人生にそこだけしか関わらない、という不自然な設定になるのは否めないのですが、最近はそうしたキャスティングが多い。そんなことは脚本のせいではないでしょう。

個人的には、1週間刻みで事件が持ち上がり、解決する過程で主人公の人生が段階的に変化していく、という割り振りのはっきりした構成ではなく、何週も前の伏線を忘れた頃に回収するような今回の話の作り方はちょっと面白く、また点を取っていくストライカーというよりは、最初にパスを出してゲームメイクをしていくような、ちょっと引いたタイプの人物を主人公に据えたあたりはチャレンジとして、もっと評価されていいのではないかと思います。

長々と書いて、何が言いたいかというと、朝ドラほどメジャーな枠だと、ちょっと物語が定型からはみ出すだけで、人は違和感を覚えるということです。

人は、朝ドラとはこういうものだ、という先入観を持っています。主人公はこんな人物、物語はこういう構成と展開、この先入観は根深いものですし、朝ドラに限らず、多くの物事に対して人は定型的な理解をしている。

そうした傾向は、人が因果関係としての物語を作る「病」を持っているからだ、と論じているのが、千野帽子著『人はなぜ物語を求めるのか』(ちくまプリマー新書)です。「プリマー新書」は中高生向けの新書のはずですが、ナラトロジーや認知心理学のかなり難しい考え方を噛み砕きながら、深いところまで議論を掘り下げています。

「病」というと大げさなようですが、人がいかに自分の「物語」で自分や自分を取り巻く環境や社会を見ているか、その「ゆがみ」を指摘していくその手さばきは冷静で、かつ相当ラディカルです。いかに自分が、もっというなら社会が、「物語」に「毒されている」か、考えさせられます。久々にお勧めしたい一冊です。

ただあえて言いますと、私としましては、個人が自分のために求める物語というのは、ナルシシズムとの距離感の問題だと思っています。ですから、本書の主張はよく分かるものの、人が物語を必要とする切実さ、という問題はもう少し深いように思います。もちろん、それがわかっていて、「物語」への執着からいかに脱け出すのか、ということを本書は説いているのではありますが。

その一方で、そう言いつつも人は、昔ほど物語が「うまく」ない。今や万人が納得し、共有する因果関係としての「物語」を作ることはますます困難になりつつあるように思います。

つまり、「ゆがみ」はより大きくなっている。そこが問題なので、もう少しそこに踏みこんでほしかったとも思うのですが、それは求めすぎかもしれません。



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2016年07月27日

夏の雑談

みなさまこんにちは。

ヴェルヌ研は5月の読書会を終え、今は各自が次号会誌へ投稿する準備中(のはず)。このブログもまたずいぶん間が空いてしまいました。

世の中は色々なことが起こりすぎて、まあそれに対して個人的に言いたいことがないわけではないのですが、このブログは「基本的には」ヴェルヌに関係あることを会員が投稿し合うものですので控えます。

最近、ヴェルヌ関連でトピックスがあるとすれば、やはり角川文庫から「海底二万里」が渋谷豊氏の新訳で刊行されたことでしょう。映画化の情報が流れ、最近の古典新訳の気運に乗っての出版ではないかと思います。角川は良くも悪くも、安価な電子書籍が同時にリリースされるので、手に入れやすいことは確かです。

若い方々に親しんでいただくためでしょうか、表紙は現代風のイラストで上巻がネモ船長、下巻がアロナックス、ネッド・ランド、コンセイユの三人が描かれています。下巻の三人は原書の挿絵に慣れていると違和感がありますし、本文中の描写とも少し違うような気がしますが、まあいいでしょう。

逆にネモ船長は、イメージが固定しているようで、それほど違和感がないのが却ってすごいということかもしれません。

原書の挿絵は岩波少年文庫の私市保彦先生訳などでご覧いただけます。

文体はおそらく初めてだと思いますが、語り手アロナックス教授の一人称をですます調で記述しています。これについては好みの問題もあって判断がなかなかつかないところではあります。特にクライマックスの崇高にまで高まる緊張感が果たして表現し得ているか、よく読み込んで比べてみるのも面白いかもしれません。

また重要なことは、日本で初めて、プレイヤッド版を底本にした翻訳であるということでしょう。ガリマール社のプレイヤッド版といわれる叢書は、訳者後記にもあるとおり、収録されれば殿堂入りしたようなもので、2012年に収録されたヴェルヌも、本国で古典作家と認定されたと言えるでしょう。

もっとも、当研究会の熱心なフォロワーのみなさまは、ヴェルヌの原書に通常単行本と挿絵版の2種類があって最終版が明確でないこと、草稿や複数種の刊行本の異同を検証した、厳密な校訂版がフランスでも未だに存在していない、ということもご存知かと思います(ご存知なくても仕方ありませんか)。

石橋正孝さんの研究によれば、「海底」については、ヴェルヌが最終的に校正したのは通常単行本の可能性が高いということで、これに依拠した邦訳は今のところ一種類しかないのではないか(岩波少年文庫の旧訳)とのこと。この辺については、会誌第5号の石橋さんの論考をご一読ください。また、石橋さん著「〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険」(左右社)も是非。

本国でも挿絵版を校訂するのが一般的で、プレイヤッド版も挿絵版が元になっていますから、草稿研究の成果が校訂や翻訳に生かされるのはまだこれから、という状況です。

映画化となればあちこちの出版社から邦訳が出て(「ジャングル・ブック」が三社から一度に出る奇怪)、一時的に消費される、ということの繰り返しは、「海底二万里」ほどの作品についてはもう十分ではないか、と考えます。厳密な校訂を経た研究版と、それを元にした翻訳が出る日が待たれます。その時初めて、ヴェルヌは古典作家としての地位を確立できるのかもしれません。
最近のSFマガジンで「ハヤカワ・SFシリーズ」(その昔「銀背」と言われた版)の解説が特集された際、「地底旅行」をめぐって「ハテラス船長の冒険」、「氷のスフィンクス」も地底旅行ものだと紹介されていて大変残念に思いました。どちらも地底になど行きません。「ハテラス」は北極、「氷のスフィンクス」は南極に行くのです。

まだまだ、ヴェルヌは知られざる作家と言えるのではないでしょうか。

「氷のスフィンクス」の元ネタ、エドガー・アラン・ポー「アーサー・ゴードン・ピムの冒険」については、集英社文庫ポケットマスターピース「E・A・ポー」に巽孝之先生の新訳が収録されています。解説で、最新の研究を盛り込んだと銘打たれていますので、これは改めてよく読んでみたいと思います。

ポーのように、「マスターピース」としてヴェルヌが取り上げられる日はいつか来るのでしょうか?


posted by sansin at 10:36| Comment(4) | 今日の推しコン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする