2015年02月03日

「キャプテン・クック探検航海と『バンクス花譜集』展」、他

まただいぶ間が空いてしまいました。そういう方も多かったのではないかと思いますが、1月下旬はともかく悲惨なニュースで気分がひどく沈んでしまいました。
そんな中、ぼんやり書店をぶらついていると、「現代思想」2月号の特集は「反知性主義」。そうだなあ、感情的に受け止めてばかりで思考停止してしまうのは反知性的としか言いようがないな、と思い直しました。
いろいろ考えることは止めようがないし。

前から紹介したいと思っていたイベントが3月1日までですので、早速とりあげましょう。
首都圏近郊の方に限ってしまうかも知れませんが、渋谷のBunkamuraで開催中の「キャプテン・クック探検航海と『バンクス花譜集』展」です。

http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/14_banks/index.html

1768年から1771年にかけて、キャプテン・クックの第一回探検航海に同行したジョゼフ・バンクス−アマチュア博物学者、というのでしょうか、裕福な若者(高等遊民?笑)にしてプラント・ハンター(本人はボタニカル・トラベラーと言ってたそうです)だった−が、採集した植物を同じく船に乗り込んだ画家パーキンソンに描かせ、帰国後銅版にまでしたのですが、結局生前出版できなかったものを、1990年代になって初めて印刷したのが「バンクス花譜集」です。

航海の道筋をたどりながら、美しい多色刷りの銅版画を見て行く構成で、当時の地球儀や天球図、六分儀なども展示されて18世紀の航海の雰囲気を彷彿とさせます。タヒチ、ニュージーランド、オーストラリア、ジャワを巡り、オーストラリアのアボリジニとはヨーロッパ人として初めて接触を果たします。
ニュージーランドのマオリ人や、アボリジニの道具類も展示されていて大変興味深いものです。

帰途、マラリアが蔓延してパーキンソンを含め多くの人を亡くす悲劇を経て帰国。
バンクスはその後王立協会の会長を長年務め、王立キュー植物園を現在のような世界の植物学のセンターにした立役者として、科学史に名を残したとのこと(パンフレットより)。

展覧会としても面白いものですが、ヴェルヌに関連しているのは、もちろんこの行程が『グラント船長の子供たち』と重複していること(方向は逆ですが)。時代は100年違いますが、マオリの棍棒など、現物を見ると迫力があります。主人公の一人で学者のパガネルが、行く先々の動植物に熱狂する空気を少しだけ共有できる気がします。

そしてもう一つは、クックの航海の最初の目的が、1769年にタヒチで金星の太陽面通過を観測することだった、ということ。
ミシェル・セールが『青春 ジュール・ヴェルヌ論』の冒頭で言っている、ヨーロッパの探検家による最初の世界征服(マゼランなど)、博物学者たちによる第二の世界征服(フンボルト、ダーウィンなど)を橋渡しする位置にクックはいるのです。そして100年後、パガネルは「新世界はすべて発見されてしまった」と慨嘆するのですが・・

この探検航海と博物学の発展については、荒俣大先生の「想像力の地球旅行」(角川文庫・品切?)に詳しいので、是非。同時代のフランスの探検家ブーガンヴィルやラ・ペルーズについても書かれています。

さらにいえば、金星の太陽面通過はかの天文学者ハレーが提唱した世界初の国際プロジェクトであり、1761年と1769年の2回に亘って世界各地で観測を行うことによって「天文単位」(地球と太陽の距離)を確定しようとする試みでした。1761年の第一回観測への参加こそ、トマス・ピンチョン『メイスン&ディクスン』(柴田元幸訳・新潮社)の主人公二人が最初にとりくむ大事業に他なりません。観測・測定・画定といった西欧文明の知がいかなる意味を持つのか、という深遠なる疑問をピンチョンはつきつけるのですが、それは是非邦訳をどうぞ。

いずれにせよ、西欧近代というものは、様々な科学的発見とともに、いわゆる世俗化をともないながら長い時間をかけて進んだものだということを改めて思うのです。

ところで前回、『地球から月へ』150年と書きましたが、ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』も出版150年ということで、分厚い大特集が「ユリイカ」臨時増刊(青土社)で出ています。
高山宏先生と巽孝之先生の対談など読んでいますと、「穴」のモチーフから地球空洞説、ポー、メルヴィル、デフォー、スウィフト、ピンチョン、ナボコフ、マージョリー・ニコルソン「月世界への旅」まで言及されているのに、残念ながらヴェルヌへの言及はなし。推せないじゃないですか。
しかし、穴、パーティーといったモチーフで言えば、ガン・クラブの連中はコロンビアード砲が完成したとき、大砲の底まで降りて行って、そこで宴会をやってますよね。高山先生自身が訳した「詳注版 月世界旅行」(ちくま文庫・品切?)で、註釈者のミラーは母胎回帰の視点でホフマンなどを参照した注をつけていますが、アリスへの言及はないようです。ま、お茶会じゃないのですが、マッドには違いないですよね。惜しいことです。
posted by sansin at 16:41| Comment(0) | 今日の推しコン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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